【投資信託に受難の時代】
団塊の世代の退職ラッシュやそれをあてこんだ金融機関の営業攻勢もあってか、投資信託の販売額が急増しました。2004年末の投資信託の純資産残高は40兆円程度でしたが、
3年後の2007年末には倍増の80兆円というのですから驚きです。 ところがこの投資信託、去年から軒並み大幅な値下がり局面となってしまいました。リスク説明を受けないで購入した方も多く各地でトラブルも起きているようですが、何十年も働いてきた成果として手に入れた退職金をわずか半年で何割も減らしてしまった方にとっては、まさに泣くに泣けない状況でしょう。
まずは投資信託にどのくらいの値下がりが起こったのかを確認してみましょう。

2007年7月〜2008年1月
この表の5銘柄が日本国内の売れ筋投信トップファイブです。どうでしょうか。厳しい結果と言わざるを得ません。この表にはありませんが、
日本株式の資産残高3位までの投信(
ノムラ戦略ファンド、
フィディリティ成長株ファンド、
さわかみファンド)の同期間の騰落率も、揃って▲
28%〜▲30%あたりです。また個人投資家にも人気が高かった不動産投信リートファンドも同様で、例えばNo.1の残高(4300億円)をもつ
ノムラグローバルリートは▲31%でした。
まさに、日本国民が購入を勧められて何十兆円単位で買い進めてきたものが、揃って下落してしまったということになります。
【投資セオリーが通用しない!?】
筆者が気にするのは、大半の分野の投信が同時に、しかも半年間にわたって同じような下落トレンドを描いてしまったという事実です。従来の経験則では、株式が下げると債券が値上がりをする…すなわち、株や債券の投信を合わせて持っていると、片方が下げても片方が堅調であるために分散投資効果が発現して資産全体の痛みは少ないはずでした。
特に日本株式と世界債券の投信は、最も値動きが逆になる組み合わせなのですが、日本株が▲30%、世界債券も▲10%だとすれば、単純な分散投資ではその分散効果が得られないことになります。
もちろんこれが短期的な現象であれば、筆者の心配も取り越し苦労であったと言えるのですが、事はそんなに単純ではないように思います。そしてマーケットが変質したとすれば、投資家にとっても、または金融商品の取扱い業者にとっても、従来の投資理論を踏襲するだけでなく、新しい投資セオリーを模索する必要が出てきたのではないでしょうか。
筆者はこのマーケットの構造変化を、「投資対象の多様化」「投資マネーの総量の変化」というふたつの視点から検証してみる必要があると考えます。
【投資対象の多様化による変化】
資産(アセット:株・債券・商品などのグループ)別のリターンは、世界を駆け巡る投資マネーがどの資産へ居所を移すかで決まってきました。債券から株に資産が移動すれば株が値上がり、また株から債券にシフトが起こればその逆の値動きが起こったのです。 しかし、最近の投資マネーは、株と債券の間を行ったり来たりするだけではありません。昨今急激にズームアップされてきたのが商品投資。中でも
原油・金・穀物に大量の投資マネーが流れ込みました。要するにここでは、株を売ったマネーは債券だけでなく商品に多く流れた印象があります。そうだとすれば株と債券が同時に軟調に推移することだってありえるわけです。
補足
今回の世界債券の下落は円高による影響によって下げた部分も大きいと言えますが、「株安と円高が同時進行する現象」も、実は過去の長期データからは異例なこと。日経平均株価とドル円の相関関係を見ても、従来逆相関であったものが
2004年頃から正相関に変わってしまっています。
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また同じ株式の中だけでも、欧米株や日本株を売った資金が
中国株・インド株・ベトナム株に大きく流れれば、日本株や欧米株、そして世界債券までが全て振るわないということもあるでしょう。
そしてさらに、ここ数年の傾向として特徴的なのはデリバティブ投資の拡大です。株の先物やオプション投資などの取引金額が肥大したことでも、マーケットは従来とは異質の動き方をするようになりました。
要するに、マネーが株と債券を行ったり来たりしていた時代に作られたベーシックな投資理論だけでは、この多様化したマーケットを捉えきれなくなりつつあると考えます。
【投資マネーの総量の変化】
このところのマーケットを思う時、まず頭に浮かんでくるキーワードは「
サブプライム問題」でしょう。投資に特化した金融機関やヘッジファンドが被ったダメージ(損失金額)は天文学的な数字となりました。
サブプライム問題がマーケットに与えた影響の中での最もまずかった点は、世界中で増幅してきた投資マネーの逆流現象を誘発したことではないでしょうか。ヘッジファンドへの解約申し込みも殺到しましたが、彼らは返却する現金を作るために全ての投資先から資金を引き揚げました。巨額の投資マネーは、資産間を移動したのではなく全体の総量を縮小させたのです。しかもその変化は半端な規模ではなかったはずです。
大半の投資信託が半年もの間値下がりを続けた、その理由がここにもあります。マネーが資産の間を移動するインパクトより、このマネーの総量が大きく変化することのほうが、個々の投資商品のリターンに影響を与えたのではないかと想像できます。
そういえば思い起こしてください。サブプライムショックが発現するまで、たいていの投資信託は好調に値上がりをしていたではありませんか。世界株投信、世界債券投信、不動産投信、そして商品や原油、金、新興国の株…日本株だけはいまひとつだったですが、押し並べて投資信託は好調だったと言えます。これは、世界の投資マネーが増幅していく過程だったと言って良いと思います。そしてそれが急速に巻き戻したことにより、全ての投資商品が同時に値下がりトレンドを描いたのではないでしょうか。
【グローバル時代の新しい投資セオリー】
このように、明らかにマーケットは構造的に変化をとげました。従来の投資セオリーの限界も感じ始めました。それでは、今後はどういう投資セオリーが有効なのでしょうか。
もちろん、従来の投資セオリーも長い年月をかけて熟成・浸透したのであって、一朝一夕にできたものではありません。おそらく、たくさんの投資家や学者によって開発された数々のセオリーの中から、安定してリターンを残していったものが支持を集めていったのだと想像しますが、それには大変長い時間が必要だったはずです。
筆者も、投資助言業者(旧投資顧問業)の立場から、このグローバル化したマーケットの中で安定したリターンを得るための投資セオリーを日夜研究しています。それについては紙面の都合で触れませんが、この研究も、一定の成果を上げるまでには多くの時間が必要だと認識しています。
また昨今の傾向として、日本の個人投資家の中にも新しい投資セオリーを模索し始める人が増えてきたようですが、これは非常に好ましい動きだと感じます。そういったパイオニア精神をもった者が切磋琢磨する中から、きっと次世代を担う投資セオリーが誕生していくのだと思います。
貯金一辺倒から投資に目覚めた日本人…きっと今後は、この投資の世界でも日本人が重要な役割を果たしていくことでしょう。